Summer Sonic 2016 東京 8/21(日) その2

 

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演奏が始まるとアリーナの群衆はさらに前方へ詰め寄った。僕はさすがにこれ以上の圧縮は体が持たないと判断して、やや後方に下がって見ることに。


「Burn The Witch」でスタート。昨日の大阪でのステージやこれまでのツアーのセットリストと同じく、冒頭の5曲は今年リリースされた最新作『A MOON SHAPED POOL』からの選曲。
これらの楽曲はライブでは観客のほぼ全員が初体験だっただろうし、アルバム自体も密室感の強い作品ということで、いわゆるフェス的な祝祭感とは異なる雰囲気をまとった展開が続き、冒頭から興奮の坩堝とはならず、スタジアムはバンドの演奏を固唾を呑んで見守るような空気に包まれた。言ってしまうと、この時点において、体力的な問題なのか、ライブが期待していたものと違っていたからなのかは分からないけれど、アリーナから去っていく観客の影もちらほら目についた。


しかしそれだけに、6曲目の「2+2=5」での観客のバースト具合はすさまじいものがあった。じりじりと我慢していたものが一気に吹き出したような、そんな熱狂が渦巻いた。その熱狂は「Airbag」でさらに高まり、「No Surprises」でひとつのピークを迎える。


さて、僕がこの日のステージで期待していたもの。それは、「Let Down」を演奏するか否かというものだった。「Radiohead の名曲は?」と問われれば、それこそ答えは人によってバラバラになるだろう。もしかすると大多数の人は「Creep」こそがRadiohead を代表する一曲だと主張するのかもしれない。もちろんそれに異存を唱えるつもりもないが、しかし僕にとってRadiohead とは3rd アルバム『OK Computer』なのである。中でも「Let Down」は随一のメロディとバンド・アンサンブルを誇る名曲だ。個人的な思い入れも強く、ライブで聴いたら恐らく涙を禁じ得ないだろう。


過去のライブにおいてほとんど演奏されることがなかったこの曲を、今ツアーでは度々披露していることは直近のセットリストで明らかになっていた。さらに僕は、「おおよそ2〜3公演に一度の頻度でセットリストに組み込んでいること」「昨日の大阪では披露していないこと」「おそらくツアーでの単独の来日は無く、サマソニのステージの後はしばらく来日することは無いだろうこと」などを鑑みて、今夜のステージで「Let Down」を演奏する可能性はかなり高いと感じていた。そして過去のセットリストの傾向から、もしその時があるのならばアンコールの1曲目であると思っていた。


「Idioteque」で本編のステージを終えたバンドがアンコールで戻ってくるのは意外と早かった。僕はアリーナ中盤くらいの位置にいて決して視界は開けていなかったのだけど、観客の間から見えたのはギターを抱えたトム・ヨークで、バンドセットのステージが準備されていることは確認できた。その時点で僕の期待は高まり、演奏に入る前のギターのチューニングの音色を聴いた時、期待は既に確信に変わっていた。


「Let Down」が来るのは分かっていた。分かっていたけれども、それでもあのギターのアルペジオによるイントロが流れてきた時、心の高まりを抑えることができなかった。僕は衝動的に両手のこぶしを掲げていた。普段、ライブで手を挙げることなんて全くしない僕が、だ。トムの歌声に涙があふれた。


演奏が難しいことでも知られる(ライブで演奏されないのもそれが主な理由のひとつ)この曲。実際、この時の演奏も正直に言って上手かったとは思えず(笑)、レコーディングされた音源をCD で聴いたほうが幾分かマシだったとは思う。でも、イントロが流れた瞬間の感動や珠玉のメロディーをトム・ヨークが歌う姿、そしてその空間を共有できたことは何にも代えがたい体験だった。


僕にとってのサマーソニックはこの「Let Down」でエンディングを迎えたようなものなので、その後「Creep」が演奏されたという事実ももはや余興でしかないのであまり多くは語らない。ライブが終わった後も「そう言えば『There There』も『Karma Police』も『Paranoid Android』もやんなかったな」とは思ったけれど、アリーナを後にする僕は十分に満足しきっていた。