映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』

新宿ピカデリーで映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』を鑑賞。


「民生ボーイと狂わせガール」予告

以下、映画の内容に触れている箇所があります。映画未見の人はご注意ください。

僕はなによりも原作者の渋谷直角氏のファンなのである。氏を知ったきっかけは雑誌『relax』(2006年に休刊、2016年に1号だけ復活)のコラムや連載なのだけど、あの頃から幾星霜、まさか彼の漫画が映画化され、全国で公開されるような未来があったとは! 陰ながら応援してきた自分としては実に感慨深いものがある。

映画のストーリーは原作に忠実ながらも*1、渋谷氏の持つアクの強さや毒、そしてある意味での同人誌的なノリ(個人的にはそれが好きなのだが)といった要素はやや薄められ、映画としてより万人に受けるようにチューニングされているように感じた。しかしそれでも十分に人を選ぶ内容であることには変わりなく、妻夫木聡水原希子を目当てに観に来る層に果たして響くのか? と老婆心ながらに気になってしまうが、どうなのだろう。))

渋谷直角コンテンツの魅力のひとつである「知る人が見れば思わずニヤリとしてしまうディティール」の使い方は、映画でも活かされている。そのあたりはパンフレットにも紹介されているんだけど、映画序盤のカレー店のシーンの片隅に雑誌『POPEYE』と『i bought』が並んでいるのを見た時は「あれ? 僕って小道具の提供したっけ?」なんて思ってしまった。(そのお店に実際に置かれているものなのかも知れないが。)

キービジュアルから受けるような、若さあふれるドタバタラブコメディーを期待するとやや肩透かしを喰らうかもしれない。鑑賞後はちょっとしたほろ苦さを感じるだろう。特に30代や40代の、ある程度の年齢と経験を重ねた人であればあるほど身につまされる思いが強いかも知れない。エンドロールの映像は1985年のPARCO のCM のパロディーだそうだが(パンフレットより)、海で必死にもがくコーロキのように、男という生き物はいくつになっても社会でもがき続けるのだ。

*1:その中で原作の内容と大きく変わったのは、主人公のコーロキが彼女(あかり)の待つ京都へ行く新幹線に乗り遅れることになるまでの流れである。個人的には原作の方が好きではあるのだけれど、あれを映画の演出で面白くするのは難しいよなあとは思う。