Love the life you live. Live the life you love.

先月、友人の通夜に参列した。自分より年下で、まだ30代半ばでありながら不慮の事故で命を落とすことになってしまった彼の無念さは計り知れない。なにしろ彼は今年の4月に結婚したばかりだったのだ。

音楽好きにとって「葬式に流してほしい曲」というテーマは「無人島に持って行きたい10枚のレコード」と同じくらい頻出する話題である。亡くなった彼もまた、東京で生まれ東京で育ったすれっからしの文化系人間で、サブカル音楽にも精通していた。きっと、自分の葬式ではこんな音楽を流そうなんてことを考えたことも一度や二度ではなかっただろう。しかし、突然の死を迎えてしまっては頭のなかのプレイリストも実現することはなかった。そもそも死んでしまった後では葬式にどんな音楽を流そうが自分には聞こえやしないし、自己を失ってしまっては自己満足にすらならないよな、なんてことを思いながら遺影に向かって手を合わせた。

「葬式に流してほしい曲」ではないが、かつて(2005年)イギリスの音楽誌「Q」での「死ぬ直前にどんな曲が聴きたい?」という質問に対してBeck が答えたコメントが今でも印象に残っている。

”ハッピー・バースデイ”は、みんなの曲。誰が歌ってもかまわないし、みんなニッコリしちゃうような曲のひとつ。この曲には、だれでも思い出があるんじゃないかな――いい誕生日もあれば、ひどい誕生日もあるし。死ぬ前にこれを聴いて、いい誕生日を思い出せれば嬉しいんだけどね 。

誰もが一度は聴いたことがある、また、記憶の有無はともかくとして自分に対して歌われたことがある「誕生日のうた」。30代半ばも過ぎて40代が近くなり、まだ結婚もできず、収入も少なくてうだつのあがらない人生を歩んでいる僕がもしこのまま人生の最期を迎えたとしても、もし今際の際にこの曲を、幼いころ両親が僕に歌ってくれたメロディーを思い出すことができたなら、「自分の人生も多少は良かったんじゃないの?」なんて思いながら死ねるのかな、なんてことを考える。